インターネット上における誹謗中傷や権利侵害が発生した場合に制定された法律が「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」です。
ネット上で被害を受けた人に対して、事業者が適切な対応を迅速に進めるよう求めることができます。
しかし、どういった内容なのか理解していない方もいるはずです。
そこで今回は、情プラ法の概要や改正された理由などを解説していきます。
情報流通プラットフォーム対処法とは
まずは、情プラ法の概要について説明していきます。
プロバイダ責任制限法から改正
情報流通プラットフォーム対処法は、もともと「プロバイダ責任制限法」という名称でした。
・プロバイダなどの損害賠償責任
・発信者情報の開示請求
・発信者情報開示命令事件に関する裁判
上記3つを定めた法律となり、ブログや掲示板、SNSなどで誹謗中傷を受けた際にプロバイダに対して発信者情報の開示請求を行える内容となっています。
当初は、発信者情報を開示してもらうために裁判手続きを2回する必要があるといった複雑さが問題視されていましたが、2022年の法改正によって1回の裁判手続きでも開示請求を行えるよう手続きが簡略化されたのです。
しかし、ネット上の誹謗中傷の相談件数が高止まりしている状況だったこともあり、2024年にプロバイダ責任制限法の改正法が成立し、情報流通プラットフォーム対処法と名称を変えて2025年4月1日から施行されています。
改正された理由
プロバイダ責任制限法がなぜ改正されたのか、その理由には前述したように被害相談の高止まりが影響しています。
総務省が発表した「令和5年度インターネット上の違法・有害情報対応相談業務等請負業務報告書(概要版)」によれば、「有害情報相談センターにおける相談件数の推移」は以下のようになっています。
・2010年:1,337件
・2011年:1,560件
・2012年:2,386件
・2013年:2,927件
・2014年:3,400件
・2015年:5,200件
・2016年:5,251件
・2017年:5,598件
・2018年:5,085件
・2019年:5,198件
・2020年:5,407件
・2021年:6,329件
・2022年:5,745件
・2023年:6,463件
2015年に相談件数が大きく増えてからは、毎年5,000件以上の相談が来ていることがわかります。
相談者のうち、「削除方法を知りたい」と答えた方は58.0%、「発信者の特定方法を知りたい」と答えた方は22.8%いることもわかっています。
削除を申請したくても窓口がどこにあるのかわからなければ依頼できません。
削除申請をしたとしても、迅速に対応してもらえなければ誹謗中傷がより拡散されてしまいます。
こうした問題点を踏まえて、新たな規制を追加して情報流通プラットフォーム対処法に改正されたのです。
情報流通プラットフォーム対処法で追加された内容とは
情報流通プラットフォーム対処法では、旧プロバイダ責任制限法の内容に加えて、新たに以下の内容が追加されています。
・実施手続きの迅速化
・実施状況の透明化
誹謗中傷を受けた場合、プロバイダ責任制限法では投稿を行った利用者の情報開示を求めることができ、削除に関してはサービスを提供している事業者との交渉や裁判を通じて権利侵害されている点を立証する必要がありました。
しかし、情プラ法では大規模特定電気通信役務提供者を対象にして、上記の手続きの迅速化と状況の透明化の2つが義務付けられています。
その結果、削除申出の対応や仕組みづくりを事業者に求めることで、投稿の削除にも迅速に対応してもらえ、投稿の拡散防止が期待できます。
大規模特定電気通信役務提供者に対する義務とは
大規模特定電気通信役務提供者とは、総務大臣に指定された大規模特定電気通信役務を提供する事業者を指します。
具体的には、一定の基準を超えたユーザーが利用する電子掲示板の運営者やSNS事業者です。
平均月間発信者数や平均月間延べ発信者数などによって判定されるようです。
大規模特定電気通信役務提供者に課せられた義務をご紹介していきましょう。
【総務大臣への届出】
総務大臣からの指定を受けた大規模特定電気通信役務提供者は、3ヶ月以内に名称や代表者氏名、住所などの情報を届け出る必要があります。
海外事業者であれば、国内の代表者や名称、住所などの届出を行います。
届出をした内容に変更があれば、随時変更届を提出しなければいけません。
【申請窓口の公表】
被害者がスムーズに削除申請できる環境を整えるためにも、申請方法を定めた上で公表する必要があります。
ただし、以下の要件を満たさなければいけません。
・オンライン上で申請できる
・日本語で申請できる
・申請者に過度な負担がかからないようにする
・申請者に対して削除申請日の受理日を伝える
【権利侵害に関する調査の実施】
申請者からの削除申請を受理した後には、プライバシーの侵害や名誉棄損といった権利を侵害する投稿が実際に行われているかの調査を遅延することなく実施しなければいけません。(情報流通プラットフォーム対処法23条)
【侵害情報調査専門員の配置】
前述した調査を適切に実施するためにも、侵害情報に関する専門的な知識や経験を持つ侵害情報調査専門員を配置する必要があります。(情報流通プラットフォーム対処法24条1項)
また、専門員の配置は平均月間発信者数などに応じた数を配置しなければいけません。(同条2項)
専門員の選任や変更の際には、総務大臣への届出も行います。(同条3項)
【申出者に対する対応方法の通知】
権利侵害にかかる調査を実施した後、申請者に対して14日以内に削除に応じるか否かを通知する必要があります。(情報流通プラットフォーム対処法25条)
ネット上での誹謗中傷は拡散されれば被害が拡大します。
そのため、迅速な対応ができるよう申請を受理した日から対応方法を通知するまでの日数が取り決められたのです。
【削除基準の公表】
被害者がどんな内容であれば削除依頼をしてもらえるのか判断するためにも、大規模特定電気通信役務提供者には、削除基準を公表しなければいけません。
基準を策定する際には容易に理解できる表現を使って具体的に定めるよう求められています。(情報流通プラットフォーム対処法26条1項、2項)
【削除措置を実施した際の発信者に対する通知】
削除措置を講じた際には、発信者に対して措置を行ったことと理由を遅延なく通知します。
その際には、発信者が納得できるようにどの基準に該当するのか説明する必要もあります。(情報流通プラットフォーム対処法27条前段)
【実施情報の公表】
大規模特定電気通信役務提供者は、年に1回削除実施状況を公表する義務が定められています。
内容は以下の通りです。
・削除請求の申出受付状況
・削除請求申出者に対しての通知実施状況
・削除措置を講じた際の発信者への通知実施状況
・上記を除いた削除措置の実施状況
・上記に対する自己評価
・総務省令で定められている事項
総務省令で定められている事項としては、自己評価の評価基準や評価基準変更時の変更内容や理由などが挙げられます。
今回は、情報流通プラットフォーム対処法について解説してきました。
ネット上における誹謗中傷が後を絶たず、相談件数も高止まりしている状況です。
相談したくても相談窓口がわからない、迅速に対応してもらえないとなれば、被害がより拡大してしまう可能性があります。
こうした背景によって新しく情報流通プラットフォーム対処法が誕生しました。
大規模特定電気通信役務提供者に該当するのであれば、ユーザーが安心して利用できる運営を行うためにも、今回ご紹介した義務にしっかりと対処していきましょう。
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