ネット上やSNSにおける誹謗中傷被害はなかなか減少しません。
批判との違いが曖昧になり、人や企業に対して誹謗中傷にあたる行為をしてしまう人も中にはいます。
自分が加害者にならないためにも、誹謗中傷について理解しておくことは大切です。
また、場合によっては被害者になる可能性もあります。
これまで、被害者が誹謗中傷をした相手の開示請求をするには大きな苦労がありましたが、「情報流通プラットフォーム対処法」が施行されたことで、状況が大きく変わりました。
そこで今回は、誹謗中傷について解説するとともに、被害を受けた際に問える罪や情報流通プラットフォーム対処法について解説していきます。

誹謗中傷とは

まずは、誹謗中傷について解説していきます。

誹謗中傷と批判の違い

誹謗中傷について理解していない方も中にはいます。
特に「批判」との違いを正しく理解しておらず、「批判した内容が実際には誹謗中傷だった」というケースもあります。
誹謗中傷とは、根拠のない悪口を広め、他人を傷つける行為を指します。
人に対してだけではなく、企業に対して誹謗中傷にあたる行為がなされるケースもあります。
一方、批判は物事や人の言動、仕事などに対して、誤りや欠点を指摘し、正すために論じることを言います。
それぞれの具体例をみていきましょう。

【誹謗中傷】
・「不倫をしている」と事実無根の情報を流す
・「頭が悪い」「能力がない」などと根拠なく人格を否定する
・「この会社はブラック企業だ」と真意のわからない情報を拡散する
・容姿を侮辱する

【批判】
・その行動は○○のような結果を招く可能性がある
・○○を見直せばより良くなるのではないか
・それには△△といった問題がある

誹謗中傷は単に人を傷つけることが目的で感情的な内容が多いです。
批判は、問題点を指摘して改善を促すことが目的なので、建設的な議論につながることを予想できます。

誹謗中傷が起こる場所

誹謗中傷は、インターネット上の様々な場所で発生します。
匿名で投稿可能な掲示板やSNSに多い傾向です。
代表的なものをご紹介していきましょう。

・SNS
XやInstagram、TikTokなどで人や企業に対し、誹謗中傷を繰り返す人もいます。
匿名アカウントでの投稿が可能なので、発言のしやすさが特徴です。
拡散力があるので、不特定多数のユーザーの目に触れやすいです。
そのため、事実無根の内容だったとしてもそれを信じたユーザーが投稿内容を広めてしまう可能性があります。

・コメント欄
ブログやニュースサイトにアップされた投稿に対して個人的な意見を書き込めるコメント欄が設けられている場合、コメント欄に誹謗中傷が行われることも多いです。
記事の内容や企業、個人に対して様々な罵言雑言がなされるケースもあります。
地図サイトにおいては、飲食店に対して「まずいから行かない方が良い」「不快な店員が店」「汚い」など、具体的な根拠のない悪評を書き込む他、従業員に対する悪口や店舗の信用を毀損するような投稿が行われることもあります。

・掲示板
5チャンネルや爆サイといった掲示板でも誹謗中傷行為は目立ちます。
特定の個人や団体、企業などに対して根拠のない悪口や噂、侮辱的な書き込みが行われるケースは多く、中には本人になりすまして差別的な発言や誹謗中傷的な投稿をする人もいます。
匿名で投稿できるため、投稿者が特定されにくく誹謗中傷が活発になりやすいです。
また、他のユーザーによって書き込まれた内容が拡散する可能性もあります。

被害を受けた時に問える罪や罰金

SNSやネット上での誹謗中傷は、個人や企業を不快な思いにさせるだけではなく、犯罪行為として罪に問える可能性があります。考えられる刑事責任は以下の通りです。

・名誉棄損罪
・侮辱罪
・信用毀損罪
・脅迫罪

それぞれについて具体的に解説していきましょう。

名誉棄損罪

公然と事実を適示して人の名誉を毀損する行為が名誉毀損罪です。
事実をもとにして人や企業の社会的評価を下げるような情報を発信し、広めるような行為に対して適用される犯罪です。
「公然と」なので、言動が公然に行われていなければ適用外となります。
SNSや掲示板といった書き込みであれば適用されますが、個別に送れるダイレクトメッセージやEメールなどでは原則として名誉毀損にはあたりません。
また、「事実を適示している」ことも成立させる要因の1つです。
例えば、「○○はバカ」「○○はブス」といった投稿は具体的な事実を示しているとは言えないため、この投稿だけでは名誉毀損罪にあたらない可能性があります。
事実の適示とは、具体的な事実を示すことで社会から受ける客観的な評価を下げることです。
また、挙げられた内容の真意が確認対象となり得るかがポイントとなります。
そのため、「○○はセクハラをしている」といった投稿がされた場合、セクハラ行為の有無が事実確認の対象となるため、名誉毀損罪として認められる可能性が期待できます。
その他、「あの店員は不倫をしている」「あの会社に勤める○○は違法薬物をやっている」「△△は裏口入学をした」なども名誉毀損罪に該当する可能性が高いです。
名誉毀損罪に該当すれば、3年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金が科されます。

侮辱罪

事実を適示していなくても、公然と人や企業を侮辱するような行為は侮辱罪にあたります。
名誉毀損と似ている部分がありますが、事実の適示が不要です。
そのため、抽象的な悪口を公然とされた場合には名誉毀損にはあたりませんが、侮辱罪に該当する可能性が高いです。
そのため、「ブス」「バカ」「アホ」「まぬけ」といった言動の発信でも罪に問える可能性があります。
また、以前はネット上の侮辱罪は立件されるケースが珍しいと言われていました。
しかし、誹謗中傷が社会問題となり刑が軽すぎるといった指摘があったことから改正され、「30日未満の拘留もしくは1万円未満の科料」に加え、「1年以下の拘禁刑」と「30万円以下の罰金」が追加されたのです。
その他、公訴時効が3年に延長された他、他人をそそのかして犯罪を起させる「教唆犯」、犯罪の手助けをする「幇助犯」の処罰もできるようになりました。
厳罰化されたことで、誹謗中傷への抑止効果が期待されます。

信用毀損罪

個人や企業の経済的信用や社会的な評価を保護するために規定されたのが信用毀損罪です。
人を騙すような手段や人を錯誤に陥らせるような手段を用いて客観的事実に反する宇技話や情報などを不特定多数の人々に広め、経済的な信用を低下させることが主な要因です。
実際に信用が失墜していなくても、失墜する恐れがあれば成立する可能性があります。

・○○はもうすぐ倒産する
・○○で販売された商品は賞味期限切れのものを使っている
・料理の中に虫が入っていた

といった言動が該当します。
虚偽の情報が拡散されれば、お店や企業は大きなダメージを受けることが予想できます。
「放置すればいずれ落ち着く」と考える方もいますが、拡散されればさらに多くの人たちに広まる可能性があります。
ネットの情報は残り続けるので、少し落ち着いてきた時にまた再燃する可能性もあるので注意が必要です。
こうした誹謗中傷が行われた際には、早めに相談し対策を講じた方がダメージを抑えられます。
信用毀損罪となれば、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。

脅迫罪

ネット上やSNSでの発言は脅迫罪にあたる可能性もあります。
生命や身体、自由や名誉、財産に対して害を加える書き込みがなされた時に適用される罪で、「公然と」の要件はないので、ダイレクトメッセージやEメールなどの個別のメッセージでも成立します。
例えば、以下のような発言が当てはまります。

・殺すぞ
・家を放火してやる
・家族に怪我をさせるぞ
・殴るぞ

脅迫罪に該当すれば、2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金が科せられます。
命の危険、家族に対する危険行為が予測できるので、早い段階で警察に相談し、身の安全を確保してください。

誹謗中傷は削除依頼が可能

SNSやネット上で誹謗中傷をされた場合には、削除を依頼できます。
法改正によって事業者に対する義務も増え、被害者に対する状況は大きく変わりました。
ここでは、実際の相談件数に加えて新しくなった「情報流通プラットフォーム対処法」について解説していきます。

ネット上の誹謗中傷の相談件数

ネット上の誹謗中傷についての削除や相手の特定方法について相談できる機関として「違法・有害情報相談センター」があります。
ネット上のトラブルを解決するためのアドバイスや情報提供を行っており、2009年に開設されて以降、様々な相談が寄せられています。
これまでの相談件数は以下の通りです。

年度 相談件数
2010年 1,337件
2011年 1,560件
2012年 2,386件
2013年 2,927件
2014年 3,400件
2015年 5,200件
2016年 5,251件
2017年 5,598件
2018年 5,085件
2019年 5,198件
2020年 5,407件
2021年 6,329件
2022年 5,745件
2023年 6,463件

相談件数は年々増加しており、2023年度の相談件数はこれまでで過去最多となっています。
相談内容として最も多かったのが「相談者の名誉や会社の信用を貶めるような情報」で3,780件と全体の半数以上を占めています。
次いで多いのが「プライバシーの侵害」で3,672件となっています。
また、相談者が臨んだ対応手段としては、「インターネット上の情報を削除したい」が全体の58%となる3,750件、「発信者の特定方法を知りたい」が22.8%となる1,472件、「警察に相談したい」が215となる1,354件、「その他」が13.6%の876件となっています。

【参照:令和5年度インターネット上の違法・有害情報対応相談業務等請負業務報告書

「プロバイダ責任制限法」が大幅にアップデート

ネット上の権利侵害に関して、プロバイダの損害賠償責任を制限し、被害者が発信者情報を開示請求できる権利を定めた法律をプロバイダ責任制限法と言います。
誹謗中傷といった権利侵害の被害者は、プロバイダに対して発信者の開示請求が行えるので、加害者を特定して法的措置を講じることが可能になります。
しかし、ネット上の誹謗中傷が深刻化している状況を踏まえ、新しく「情報流通プラットフォーム対処法」が2025年4月から施行されています。
発信者情報開示請求の手続きが迅速化された他、大規模プラットフォーム事業者(SNS事業者など)に対する義務付けなど、新規制が盛り込まれています。
主な内容をご紹介していきましょう。

・迅速な対応の義務化
誹謗中傷や権利侵害などの申し出を受けた事業者は、7日以内に対応を判断してその結果を通知することが義務となっています。
そのためにも、法律の専門家や日本の社会問題に詳しい専門家など、侵害情報調査専門員を配置しなければいけません。
選任した際には総理大臣への届け出が必要です。

・窓口の設置や手続きの整備、公表
大規模プラットフォーム事業者は、誹謗中傷や権利侵害の申し出を受け付けるための窓口や手続きの整備、公表も義務化されています。

◎Webといった電子的な方法による申出が可能
◎申出者に対して過度な負担をかけない
◎申出を受けた日時が申出者に明らかとなる

申出方法は、上記を満たす必要があります。
過度な負担をかけないものの具体例としては、「トップページから少ない手順でアクセスできる」「アカウントを持っていない人でも申出ができる」「プライバシーの権利や利益の侵害を生まない形で削除申請ができる」などが挙げられます。

・運用状況の透明化
大規模プラットフォーム事業者は、年に1度削除の運用状況を公表しなければいけません。
公表内容は以下の通りです。

◎受付件数
◎削除件数とその理由
◎自動化手段を使った削除の利用状況
◎SNS事業者が実施した事項についての自己評価

大規模プラットフォーム事業者とは、月間平均アクティブユーザー数が1,000万人以上の事業者が基準となります。
そのため、XやInstagram、LINEやFacebook、YouTubeやTikTokといったSNS事業者が当てはまります。

違反すれば最大で1億円の罰金

情報流通プラットフォーム対処法では、大規模プラットフォーム事業者に対して罰則が設けられています。
具体的には、総理大臣によって書類送達による勧告が行われ、理由なく措置を講じなかった場合には措置を命じることが可能です。
命令に違反した場合には、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金が科せられます。
しかし、大規模プラットフォーム事業者には両罰規定があるため、法人に対しては第21条や第35条に違反すれば、最大で1億円もの罰金が科されるようになっています。
重い罰が科せられるので、事業者も適切に対処してくれることが予想できます。

今回は、ネット上やSNSでの誹謗中傷について解説してきました。
誹謗中傷を受けた場合、名誉毀損や脅迫罪といった罪に問える可能性があります。
そのためにも開示請求が必要になりますが、「手間がかかる」「時間を要する」といった点が問題視されていました。
しかし、プロバイダ責任制限法が改正し、情報流通プラットフォーム対処法が誕生したことで負担減少が期待されています。
大規模プラットフォーム事業者に対しても削除判断プロセスの透明化や窓口の整備など、様々な義務を課しています。
違反すれば処罰の対象となるため、適切な対応も期待できます。
被害者が簡単に通報や相談ができる環境が整ったので、攻撃する側としても自分の言動が罪に問われる可能性が高くなることが予想できます。
その結果、誹謗中傷の抑止効果にもつながるでしょう。