他人を傷つけることを目的に、根拠のない情報や悪口などを広める行為を誹謗中傷と言います。
具体的には事実に基づいていない悪口や噂を広める他、人格を否定するような発言をすることです。
特にインターネットやSNSが普及している現代においては、匿名で書き込みができることもあり、誹謗中傷被害が増えています。
日本でも深刻な問題となっているため、他の国でも同様に問題視されていることが予想できます。
「誹謗中傷が世界で最も多い国はどこ?」と疑問に思う方も中にはいるはずです。
そこで今回は、誹謗中傷が最も多い国について解説するとともに、日本の実情や誹謗中傷に対する世界の対策についてご紹介していきます。
誹謗中傷が最も多い国はどこ?
ネット上で自由にコミュニケーションが可能になり利便性はアップしていますが、誹謗中傷による被害は深刻化しています。
中でもSNSを活用した誹謗中傷は匿名で発信できることもあり、日々多く散見されるようになりました。
世界的に見ると、どの国が誹謗中傷が多いのかはデータが出ていません。
しかし、SNSが普及しているのであれば、その分誹謗中傷被害が多いと予測できます。
例えば、ふとしたことを呟ける「X」は世界中にユーザーがいます。
日本法人代表を務める松山歩氏が「Web担当者Forum ミーティング 2025 春」で発表した内容によると、日本国内だけの月間アクティブユーザー数は6,800万人だと伝えています。
これは、アメリカに次ぐユーザー数だと言います。
ユーザー数が多ければ、その分様々な言葉を発信している人がいるため、誹謗中傷する人も多いと予想できます。
「好きなこと」や「家族」「気になること」などを呟いている人も多いですが、匿名性である故に、何でも書き込めると勘違いしている人が多いのが実情です。
日本は匿名性を好む傾向にある
日本は「匿名性」を好む傾向が強いです。
11年前のデータですが、平成26年度情報通信白書によると、日本のXの匿名利用の割合は75.1%となっています。
平成27年度は76.5%です。
一見すると「実名で利用している人もいるんだ」といった感想を持つ方もいるでしょう。
しかし、世界をみてみると匿名利用は以下のようになっています。
・アメリカ:56.4%
・イギリス:60.3%
・フランス:42.4%
・韓国:54.5%
・シンガポール:47.6%
日本が最も多い結果となり、実名を公開することに抵抗感がある人は他国では3~4割という結果でしたが、日本では6割を超えていると言います。
匿名性を好む傾向は、今も変わりがないと予想できます。
NTTドコモモバイル社会研究会が発表した「モバイル社会白書(2024年版)」の結果をみていきましょう。
Xのアカウントを匿名で利用している年代別のユーザーの割合は以下の通りです。
・10代:76.0%
・20代:68.2%
・30代:77.1%
・40代:78.5%
・50代:73.6%
このように、匿名文化が根付いていることで、誹謗中傷の陰湿さに拍車をかけていると予測できます。
家族や同僚、上司や知人の前で「気持ち悪い」「いなくなってほしい」「顔を見るのも不快」など、心無い言葉を面と向かって平気で言える人は少ないはずです。
しかし、その人がいない場所であれば言える人は少なからず存在します。
ネットやSNSとなれば匿名で発言できるため、イライラした時や不快な思いをした際には、思わず呟いてしまう方もいるでしょう。
また、中には名前や素性も知らない見ず知らずの他人に対してであれば、「会うこともない」「自分が言ったとはわからない」と思い、罵言雑言が吐けるといった人も一定数います。
「匿名であれば自分で発言したことが相手にはわからない」といったような安易な考えによって陰湿な誹謗中傷が増えています。
日本は「削除要求」や「開示請求」が多い
匿名性が好む傾向にある日本においては、削除要求や開示請求の件数も多い結果が出ています。
現在はX Corp.に合併したツイッター社による発表によると、2021年上半期における削除要求は世界で4万3,387件あり、そのうちの1万8,518件が日本だったと言います。
日本だけで4割強の要求があり、政府機関以外から寄せられたアカウントの開示請求に関しても、全世界460件中241件が日本となり、5割強を占めていることがわかります。
削除要求や開示請求の全てが誹謗中傷だとは限りません。
しかし、メディアや専門家が削除要求や開示請求を誹謗中傷の対策として言及しているため、一定数は誹謗中傷が含まれると予想できます。
また、インターネット違法・有害情報相談センターに寄せられる相談件数も年々上昇していると言います。
総務省が発表した「令和5年度インターネット上の違法・有害情報対応相談業務等請負業務報告書」による相談件数の推移は以下の通りです。
年度 相談件数
2019年 5,198件
2020年 5,407件
2021年 6,329件
2022年 5,745件
2023年 6,463件
2023年度の相談件数は過去最多となっており、今後も増える可能性があります。
誹謗中傷がなくならない理由
ネット上やSNS上で誹謗中傷がなくならない理由として、「教育の弊害」だと考えている方もいます。
日本では「ルールを守る」ことや「マナーを守る」こと、「他の人に迷惑をかけない」ことを教育で教えこまれます。
方針としては全く問題ありませんが、規範意識が過剰になることで対立や分断を招いてしまうと考えられます。
そのため、「ルールを守らない人」「みんなに迷惑をかける人」に対しては、怒りや憎悪といった感情が芽生えてしまいます。
確かにルールを守らないのは悪いことですが、それに過剰に反応し過ぎるあまり、それを制裁するための誹謗中傷は許されると考え、ネット上やSNS上で相手を傷付けるような発言をしてしまうのです。
日本で起こった誹謗中傷の実例
日本では、誹謗中傷に関する様々な問題が起こっています。
その一例をご紹介しましょう。
・一般人に対する実例
2019年に茨城県の常磐自動車道で男性があおり運転を受けた事件が発生しました。
被害者はあおった車の運転手に殴られる行為もされ、その様子を加害者の車に同乗していた女性が撮影した様子がテレビやネットニュースなどで取り上げられて大きな話題となりました。
しかし、「その映像で映っていた服装と似ている」といった理由から、事件とは全くの無関係の女性が加害者の車に乗っていた女性だと拡散され、個人情報が特定される事態へと発展したのです。
この女性のSNSには「自主しろ」といった発言から悪口といった様々な罵言雑言がされ、無実が証明された後も、しばらくは誹謗中傷が続いたと言います。
・自殺へと発展した事件
人気リアリティー番組に出演したプロレスラーの女性が番組内で発言した言動を巡り、SNS上で誹謗中傷を受けた事件もあります。
女性に対し、「消えろ」「死ね」といった書き込みが多数あり、2020年に女性は自死しました。
日本の誹謗中傷対策
前述したような事件により、誹謗中傷に対する対策は強化されています。
具体的には、SNS事業者への迅速な対応の義務化、発信者情報の開示手続き簡素化、相談体制の整備などが挙げられます。
・SNS事業者への迅速な対応義務化
2025年4月に「情報流通プラットフォーム対処法」が施行され、誹謗中傷に対する迅速な対応をSNS事業者は義務付けられました。
誹謗中傷や権利侵害といった申出を受けた際、7日以内に対応を判断し、その結果を通知する義務となっています。
また、削除基準を具体的に定め公表する必要がある他、削除の運用方法についても年に1度公表して透明性を確保する必要があります。
また、侵害情報調査専門の配置や被害者以外の第三者からの削除要請にも対応することが望ましいとされました。
・発信者情報の開示手続き簡素化
2022年10月にプロバイダ責任制限法が改正され、発信者情報の開示手続きが簡素化されました。
これまでは、SNS事業者といったコンテンツプロバイダへの仮処分申立てと、インターネット接続業者への訴訟提起の2段階での手続きが必要でしたが、改正後は裁判所への1回の申立てのみで両方に対して発信者情報の開示を求めることが可能になっています。
そのため、1年半程度の時間を要した開示が改正後は3ヶ月程度の早さで完了するようになったのです。
長時間の裁判を強いられる必要がなくなったため、被害者の負担が大きく軽減されました。
また、訴訟費用や弁護士費用を抑えられる可能性もあります。
・相談体制の整備
誹謗中傷に対する相談窓口も大きく整備されています。
違法・有害情報相談センターでは、相談者自身で行う削除依頼の方法や問題解決の糸口を見出したい時などに相談できます。
ネットに関する技術や制度に関する専門知識を持った相談員によるアドバイスを受けられる仕組みです。
その他にも、削除要請に関する相談ができる「人権相談」、プロバイダへの連絡を受け付けている「誹謗中傷ホットライン」などが存在します。
法務局や警察などでも相談窓口が整備されています。
外国で実施されている対処法
日本だけではなく、世界でも誹謗中傷が問題となっているため、法整備や対策が行われています。
ドイツ
2017年に難民が増加したことで難民に対するヘイトスピーチや偽情報などが増えたことを受け、ネットワーク執行法が成立しています。
ドイツ国内の登録利用者数が200万人を越える営利的SNS事業者に対しては、以下のような義務が課せられました。
◎ドイツ刑法で違法と疑われるコンテンツを利用者が苦情として報告できるよう、苦情報告サイトを設置する
◎苦情報告を受けた際には、コンテンツを審査して違法だと判断されたものは24時間以内、それ以外の違法情報についても、7日内に削除もしくはドイツのIPアドレスを持つ人では閲覧できないようにアクセスをブロックする
◎年間で100件以上もの苦情報告を受けた事業者は、処理の仕方を半年ごとに報告書によって提出し、作成した後は1ヶ月以内に連邦官報や自身のWebサイト上に公表する
上記義務を怠った場合には、最高で5,000万ユーロまでの過料が科せられます。
フランス
インターネット上のヘイトスピーチや誹謗中傷への対策として、2020年5月に「インターネットヘイトスピーチ対策法」が承認されました。
プラットフォームの事業者に対して侮蔑表現やヘイトスピーチを24時間以内に削除することを義務付ける法律で、違反した事業者には最大で125万ユーロの罰金が科せられる他、悪質だと判断されれば全世界における年間収益の4%が罰金上限となる可能性があります。
しかし、違憲性があると判断され、違憲部分の削除や修正をされ、同年6月に公布・施行されています。
子ども達への教育も重要
ネット上やSNS上での誹謗中傷を無くすためにも、子ども達への教育が必要です。
2023年に発表された「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、ネットいじめの件数は24,678件と調査以来最多となっています。
SNSを使ったいじめに関しては、外部から見えにくいだけではなく匿名性が高いため学校が認知しきれていない可能性もあるため、今回発表された件数よりも実際には多い可能性も考えられます。
保護者との連絡や安全面の配慮から近年では小学生でもスマートフォンを持っているケースが増えています。
SNSを利用している子どもも増えているため、トラブルに巻き込まれる可能性がある点には保護者も注意しなければいけません。
SNSの使い方、危険性などは、子どもと話し合いを行い、「悪口を書き込まない」「個人情報を書かない」など、あらゆるルールを作ることも検討してください。
また、XやYouTube、TikTokには年齢制限があります。
アカウント作成はできないため、小学生のうちはアカウントを利用させないよう注意してください。
その他、SNS上でトラブルが起きた時に相談できる雰囲気を作ることも大切です。
警戒ばかりしていれば何かあった時に怒られると委縮してしまうため、相談しにくくなってしまいます。
すぐに対応できるよう、普段からコミュニケーションをとっておくことがポイントです。
今回は、ネット上やSNS上での誹謗中傷についてご紹介してきました。
誹謗中傷が最も多い国に関してはデータが上がっていませんが、SNSのユーザー数が多ければその分誹謗中傷も多くなると予想できます。
日本においては相談件数も年々増加しているため、他人事ではなく自分事で考える必要があります。
自分が誹謗中傷をする加害者にならないことも大切ですが、被害者にならないよう危険性や対処法などをあらかじめ理解することが大切です。






















