誹謗中傷は、日常で誰にでも起こり得ることです。

単純に誹謗中傷の被害に遭うだけではなく、自分が引き起こす側になるかもしれません。

ネットやSNSの進展で、誹謗中傷によるトラブルは後を絶たず、国内だけでなく世界中で問題視されています。

そこで今回は、誹謗中傷がどのようなことを言うのか、増加している原因や法律上の影響、実際に誹謗中傷に遭った時の対応などについて解説していきます。

どのようにして誹謗中傷が起こっているのか、どこからが誹謗中傷に該当するのかが曖昧な方も、ぜひ参考にしてみてください。

 

誹謗中傷は具体的にどんなこと?どこからが誹謗中傷になるのか

誹謗中傷という言葉は、スマートフォンやパソコンでネットやSNS等を使用したことがある方なら1度は耳にしたことがあるはずです。

簡単に言うと、誹謗は相手に対する悪口を指し、中傷は根拠がないことで相手が傷付くような発言をすることです。

例えば、特定の人物に対して「デブ」「ブサイク」などと発言した場合は誹謗に該当し、本当はその事実がないにも関わらず「不倫」「詐欺」と発言するのは中傷に該当します。

つまり、誹謗中傷は言葉の暴力を指し、特定の人物に対して侮辱・嫌がらせ・虚偽情報などで相手を傷付け、名誉を侵害することを言います。

よく批判と同じ意味に捉えている方もいますが、批判は相手の行動や発言を踏まえ、異なる意見を主張する意味です。

誹謗中傷は相手の行動や発言だけでなく、容姿や人格、性格、特徴など、その人の存在に否定的な発言をすることです。

特定の人物への誹謗中傷は、面と向かって直接行うこともあれば、ネットやSNSを通じて間接的に行うケースもあります。

誹謗中傷は悪意があったのか、また情報が虚偽のものなのかといった点で線引きをする場合が多いです。

しかし、明確に区別するのが難しいため、どこからが誹謗中傷に該当するのかが曖昧になっている方も多いでしょう。

自分は誹謗中傷しているつもりはなくても、相手は誹謗中傷だと感じてしまうケースもあります。

最近では、誹謗中傷が原因でネットやSNSで炎上し、訴訟に発展するケースも少なくありません。

 

誹謗中傷が増加している原因とは

総務省が運営委託している「違法・有害情報相談センター」によれば、ブログやSNS等での誹謗中傷の相談件数は2022年で5,745件であることがわかっています。

8年連続で5,000件を超えており、被害に遭うケースは年々増加していると言われています。

では、なぜ誹謗中傷が増加してしまったのでしょうか?

 

匿名性の高さ

ネットの掲示板やブログ、SNSでは、本名ではなくハンドルネームやアカウントネームを自由に作成できます。

匿名で情報やコメントを発信できるため、発信者が誰なのかを特定しにくくなっています。

そのため、匿名だからバレることがないという安心感を抱き、普段の自分ではできないような発信をするケースが増えているのです。

赤の他人になりすまして悪意を持って誹謗中傷をする人もいますが、自覚がないままに誹謗中傷の加害者となってしまう人もいます。

 

発信のしやすさ

X(旧Twitter)やInstagram、FacebookなどのSNSでは誰でも簡単に利用できる手軽さが特徴です。

一言や二言をタップするだけで発信できる仕組みになっているので、誰でも発信しやすい状態になっています。

自分が発信する側でなくても、投稿された内容に対するコメントもしやすいため、集団心理が生まれやすくなります。

そのため、「他の人も同じ意見だから」という理由で、偏った意見がどんどんエスカレートしていく可能性が高くなるのです。

リアルタイムでSNS利用者の興味・関心があるキーワードがトレンド入りすれば、不特定多数の人々がそのワードに集中してコメントするケースも多いです。

誹謗中傷に対する知識やリスク管理が不十分なユーザーも多く、誹謗中傷が起こりやすくなっています。

 

SNS利用者の増加

ネット環境が進展したことで、スマートフォンやタブレットを持つ人の多くがSNSを利用するようになりました。

コミュニケーションツールだけでなく、ショート動画コンテンツとしても利用者が格段に増えている状況です。

総務省の「世界のソーシャルメディア利用者数の推移及び予測」によれば、SNSの利用者は2019年から増加傾向にあります。

2019年ではSNS利用者数は35億1,000万人でしたが、2022年では45億9,000万人にまで増加しています。

さらに2028年には60億3,000万人にまで増加すると予測されており、今後も利用者数が増えていく可能性が高いです。

利用者数が増えていると同時に、誹謗中傷が起こるケースも増えていっているのです。

 

誹謗中傷は権利侵害にあたる可能性も

どこからが誹謗中傷なのかという区別は難しいと言われていますが、誹謗中傷は特定の人物に対して根拠のない虚偽情報による侮辱や嫌がらせなどで触れ回ることです。

こうした行為は、名誉棄損罪や侮辱罪といった権利侵害にあたる可能性があります。

ここでは、権利侵害が成立するケースをご紹介します。

 

名誉棄損罪(名誉権侵害)

名誉棄損罪は、刑法により以下のように規定されています。

・名誉棄損罪:公然と事実を摘示し、人の名誉を棄損した者はその事実の有無に関わらず3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金が科せられる

つまり、不特定多数の人が知ることができる状態で相手の社会的評価に影響を及ぼすような発言・発信をした場合は名誉棄損罪が成立するということです。

不特定多数の人が閲覧できるネットの掲示板やブログ、SNSなどは公然の場に該当します。

摘示した内容については、事実なのか虚偽なのかは関係なく罰せられることになります。

画像や写真などを掲示板やSNSで発信することも名誉棄損罪が成立する可能性が高いです。

 

侮辱罪(名誉感情侵害)

侮辱罪は、2022年7月7日以降に侮辱罪を犯した場合、刑法により以下のように規定されています。

・侮辱罪:事実を摘示しなかった場合でも、公然と人を侮辱した者は1年以下の懲役もしくは禁錮、もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処される

侮辱罪は、摘示した内容に関わらず公然の場で人を侮辱した場合に成立します。

対象は個人だけでなく、会社や団体なども含まれます。

例えば、SNSで特定の人物に対し「○○はブサイク」「○○はキモイ」などと投稿した場合、公然と侮辱していることになるため、侮辱罪とみなされる可能性が高いです。

 

信用毀損罪

信用毀損罪は、刑法により以下のように規定されています。

・信用毀損罪:虚偽の風説を流し、または偽計を用いて人の信用を毀損またはその業務を妨害した者は、3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科せられる

信用毀損罪は、相手の信用を貶めるような虚偽情報を広める行為が認められた場合に成立します。

偽計とは、虚偽の情報を流すための手段のことで、無言電話や商品・サービスに対する嫌がらせ、不正注文などが挙げられます。

例えば、「○○(会社名)は原料に○○を使用しているから体に悪い、買わない方がいい」という虚偽情報を流した場合、信用毀損罪が成立する可能性が高いです。

 

最近起こった誹謗中傷トラブルとは

ここからは、実際に起きた誹謗中傷トラブルをご紹介します。

 

人気スポーツ選手の結婚相手への誹謗中傷

誰もが知る人気スポーツ選手は、結婚相手に対するSNSの誹謗中傷やストーカー行為、無許可取材などが相次いだことで、2023年11月に離婚発表しています。

人気スポーツ選手本人は、様々なメディアで一般人である結婚相手やその家族に誹謗中傷、生活空間でもストーカー行為や無許可取材が多くなっていることから、結婚相手を「これ以上守り続けることが難しい」という結論に至ったと語っています。

人気スポーツ選手なだけに、結婚時には祝福の声が相次いだ一方、一部では結婚相手を詮索して誹謗中傷するユーザーが多くなってしまったのです。

人気スポーツ選手のマネジメント会社は、この発表を受けこれ以上の取材等は控えて欲しいと伝えています。

 

クリスマスディスプレイに関する事実誤認による誹謗中傷

2023年12月、某百貨店に設置したクリスマス向けのディスプレイの一部に無断使用したものがあったことが明らかになりました。

この件に関しては当該展示物を撤去し謝罪をしているものの、SNSではコラボした人形作家への事実誤認の投稿が広がっている状況を説明しています。

人形作家はこの件に関して関与していなかったものの、クリスマスウィンドウではコラボ作家の記載があったため、SNSでは人形作家も無断使用に関与したのではないかというと投稿が相次ぎました。

その後、某百貨店は協力会社に制作・施工を依頼しているため、人形作家は一切関与がないことを説明しました。

 

人気急上昇中のゲームへの誹謗中傷

2024年1月に発売されたばかりの人気急上昇中のゲームが、一部のユーザーから誹謗中傷を受けています。

ゲームで登場するキャラクターが長年愛され続けている別のゲームのキャラクターに類似しているため、意図的なオマージュではないかという指摘が相次いだのです。

しかし、中には関わったアーティストへ対する誹謗中傷や、殺害予告に近い投稿も散見されている状況です。

これを受け、開発元であるCEOが誹謗中傷をやめるよう呼びかけを行っています。

CEOによれば、ゲームのキャラクター等の監修は本人含めた複数人で行っていること、制作物の責任は自分にあることを述べ、これ以上の誹謗中傷や関係のないアーティストの誹謗中傷をやめるよう呼びかけました。

 

誹謗中傷の被害に遭った時の対応

では、誹謗中傷の被害に遭った場合、どのように対応すれば良いのでしょうか?

最後に、適切な対処法をご紹介します。

 

当該投稿の削除依頼

誹謗中傷の投稿は、削除依頼を出すことが可能です。

投稿者本人はもちろん、サイト管理者に削除依頼を出す方法もあります。

しかし、削除依頼を出すことで逆上され、被害がさらに拡大する恐れもあります。

その場合は、裁判所の削除仮処分手続きで削除仮処分命令を行ってもらう方法もおすすめです。

削除仮処分命令が発令された場合、ほとんどの相手が削除に応じてくれます。

ただ、誹謗中傷の加害者となる人物が多い場合、対処し切れない可能性もあるため注意が必要です。

 

損害賠償請求

当該投稿の削除依頼だけでなく、相手に損害賠償請求をする方法もあります。

損害賠償請求できるかどうかは、投稿者の特定が可能なのかによって変わります。

投稿者を特定する流れとしては、サイト管理者へ投稿者のIPアドレス開示請求を行い、接続プロバイダに対してそのIPアドレスを使用した契約者の住所・氏名の開示を求めることです。

仮にプロバイダへ請求しても特定できなかった場合は、裁判所で発信者情報開示訴訟を提起しましょう。

投稿者が特定できれば、損害賠償請求をして根本的な問題解決につなげることができます。

 

警察に相談する

誹謗中傷は、投稿された内容次第で犯罪にあたる可能性も十分にあります。

上記で解説したように、誹謗中傷は名誉棄損罪や侮辱罪、信用棄損罪といった権利侵害に該当する可能性があります。

いずれかに該当する場合は、警察に相談し、問題解決を図るのがおすすめです。

近年は、ネットの掲示板やブログ、SNSなどでの誹謗中傷が相次いで起こっているため、警察側も対策を強化しています。

あまりにも内容がひどいと感じた場合は、各都道府県警察に相談してみてください。

 

まとめ

今回は、誹謗中傷の意味や増加している原因、法律上の影響、実際に誹謗中傷に遭った時の対応などを解説してきました。

ネットやSNSが普及して利用者が増えたことで、誹謗中傷の被害に遭う人が非常に多くなっています。

発信のしやすさや匿名で投稿できることから、軽い気持ちで投稿した内容が誹謗中傷にあたるケースも少なくありません。

誹謗中傷は、内容によっては犯罪にあたる可能性のある危険な行為です。

「いつの間にか加害者になっていた」ということにならないよう、ネットの掲示板やブログ、SNSを利用する際は十分注意しなければなりません。

もし誹謗中傷の被害に遭ったら、削除依頼や損害賠償請求、警察への相談などの対処法があります。

1人で悩まずに、周囲に相談することも大切です。

誹謗中傷の被害に遭ったら、早めに対応するようにしましょう。